大沢温泉の歴史は古く、延暦年間(約1200年前)に坂上田村麻呂が傷を癒したという伝説が残る。また、慶応3年(1867)には南部藩主40代利剛公が湯治に訪れ、ほかにも宮沢賢治や高村光太郎が訪れている。豊沢川に架かる曲がり橋より周囲を見渡すと、茅葺きの菊水館といい、田舎風情の自炊部といい、昔にタイムスリップしたかのような風景である。ホームページには大正末期の写真が載っているのだが、当時と何も変わっていないのだ。
まずは自炊部玄関よりいちばん近いところにある、山水閣の地階にある「豊沢の湯」へ。豊沢川に面して大きな湯船が1つあり、ホテルの大浴場っぽい雰囲気。しかしながら大きな岩を組み合わせた湯船で、半露天のつくりであったが、夏場以外はガラス戸を設けて内風呂へと様変わりするようだ。川面まで2〜3mの高さにあり、対岸は雑木林となっている。まだ新緑の時期には早く、枯れ木ばかりであったが。大沢温泉の風呂の中で、最も万人受けするのが豊沢の湯だろう。
つづいて自炊部の「薬師の湯」へ。天井までは5〜6mありそうな吹き抜けの室内は、壁が薄汚れていて相当年季が入っていそうな感じ。小さな湯船が2つあり、タイル張りのためか、温泉成分のためか底がぬるぬる。窓は天井近くに明かり取りのためだけに設けられており、ひたすら湯に集中するしかない。温泉場の共同浴場をほうふつとさせる素朴さとレトロ感が味わえる。
自炊部はいくつかの建物が渡り廊下で結ばれているのだが、外履き用サンダルでいったん外に出て、橋を渡ると右手に菊水館の茅葺きの建物。左手に「南部の湯」がある。床面だけはタイル張りだが、全体的には木造。約4帖ある湯船も木造で、これから時代を重ねるごとにもっと味わい深くなっていくことだろう。こちらも半露天のつくりで、眼下に豊沢川を眺める。
以上4ヶ所の風呂に入浴したが、自炊部には女性専用の露天風呂「かわべの湯」もある。温泉はすべて無色透明で、わずかにぬめり気があるが、肌ざわりはつるつる。ごく一部で循環処理を行っている。建物の雰囲気もそれぞれ個性的だったが、風呂もそれぞれが個性的だった。土手には山桜が咲き、春の息吹を感じさせてくれたが、新緑や紅葉の時期には、贅沢な景色を堪能できるのではないだろうか。
大沢温泉
源泉/大沢温泉(単純温泉)
住所/岩手県花巻市湯口字大沢181 [地図]
電話/0198-25-2315(自炊部)
交通/JR東北本線花巻駅よりバス30分
花巻市街地より県道12号線
料金/大人500円、小人300円
時間/7:00〜20:30