
蔦温泉の開湯は古く、久安3年(1174)にはすでに湯小屋があったという。共同管理の湯治場から旅館になったのは、ちょうど100年前の明治42年(1909)。いまでも本館には、古きよき温泉宿の風情が存分に残っている。この旅館には「久安の湯」と「泉響の湯」という2つの浴室があり、どちらも改築を経ているが昔ながらの湯小屋の雰囲気が楽しめる。
久安の湯は時間帯によって男女入れ替えで、9:00〜20:00は男性専用、それ以外は女性専用となる。浴室は天井が高く、すべてが木造。大部分を湯船が占め、ほかにかけ湯用の汲み湯枡があるのみ。無色透明の源泉は、湯船の底板の隙間から湧き出しており、時折り小さな気泡が浮かび上がってくる。分析表によると自然湧出で、その量は測定不可だという。贅沢なほどの量が湯船からあふれている。泉温は44.6℃とのことだから、湯船の中ではちょうど良いくらいの温度。薄暗い室内には湯気が立ち込めており、かなり鄙びた印象だ。壁の一角に設けた水槽には金魚や熱帯魚ではなく、付近の川魚を泳がせるセンスのよさ。飾り気の無さはさすがである。
泉響の湯は男女別に浴室が設けられている。久安の湯より新しいことは一目瞭然であるが、浴室の造りや雰囲気は似ている。床と腰高まではタイル張りだが、ほかはすべて木造。隅にシャワーブースもあるのだが、かけ湯には湯だまりのお湯を使う。あえてカランを設けなかったことには評価したい。湯船の大きさは久安の湯とほぼ同じで、こちらも足元から源泉が湧き出している。泉響という名前は、井上靖が蔦の雰囲気を「泉響颯颯」と詠んだことによる。「泉の音がそよ風に乗って聞こえてくる」といった意味なのだとか。

懐かしのペナント。「昔の売れ残りですよ」と売店のおじさんは笑った。
(左・中)酸ヶ湯から蔦温泉への道。(右)蔦温泉から奥入瀬への道
蔦温泉旅館
源泉/蔦温泉
(旧湯:ナトリウム・カルシウム−硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物泉)
(新湯:ナトリウム−硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物泉)
住所/青森県十和田市奥瀬字蔦野湯1 [地図]
電話/0176-74-2311
交通/JR東北本線青森駅よりバス1時間43分「蔦温泉」停下車
東北自動車道十和田ICより国道103号線で約1時間30分
料金/大人500円、小人(小学生)200円
時間/9:00〜16:00
・蔦温泉旅館(日本秘湯を守る会)