元湯夏油は旅館と自炊棟の複数の建物から成り、露天風呂には左右に並んだ建物の間の通路を行く。申し訳程度に食堂や売店もあり、ここだけひとつの集落のような雰囲気だ。営業開始初日とあって客が少ないのか、ゴーストタウンのように静まり返り、帰りなどは足元がおぼつかないほど真っ暗。つげ義春の漫画に出てきそうな光景だが、調べてみるとやはり昭和44年に訪問済み。ところで、いくつかある建物の中で「昭和館」だけは経営が別だというから訳がわからない。違和感なく軒を連ねているのだが。
まず初めに「真湯」に入浴。入口こそ男女別に分かれてはいるが、棚だけの簡単な脱衣スペースの先に湯船が1つ。源泉は湯船の底から湧いており、新鮮なお湯がかけ流しとなってあふれている。40℃以下でぬるく、湯船も浅いので余計に寒く感じた。川はすぐそばに流れ、ざあざあという音が聞こえるのみ。対岸には「女(目)の湯」があるのだが、向こうにはすだれが掛かっているためご対面なんてことはない。そもそも客なんぞいなかったが。土手側の斜面は玉石積みの擁壁となっている。



続いて入浴したのは「大湯」だったが、湯船のつくりや景色はほとんど変わらない。唯一異なるのはお湯がかなり熱めだということ。それでも43〜44℃といったところか。我慢できないほどの熱さではないし、冷えた身体にはこのくらいがちょうどいい。真ん中の写真は女性専用(男性専用の時間帯もあり)の「滝の湯」だが、こちらは露天風呂というより、内風呂のつくり。こちらもかなりの熱さだったらしいが、100mも離れていないのに泉温がこんなに異なるのだから不思議だ。辺りはもう真っ暗になってしまったが、湯船には電球のぼんやりとした明かりが灯るだけ。水面に反射してゆらゆらと揺れて幻想的。夏の日差しでお湯が油のように見えたという話も、なんだかわかる気がする。
いまだ残雪があり川は水量を増していた。北上市街地より車で1時間とはいえ相当山深い。夏場しか営業していないという希少性もさることながら、到着するまでの険しい山道が秘湯ムードを盛り上げる。そしてたどり着いた先に広がるノスタルジックな風景。人影が全くなかっただけに、幻の世界に引き込まれたかのような不思議な体験だった。
元湯夏油
源泉/夏油温泉(ナトリウム・カルシウム−塩化物泉ほか)
住所/岩手県北上市和賀町岩崎新田1-22 [地図]
電話/090-5834-5151
交通/JR東北本線北上駅よりバス約65分(1日2便)
秋田自動車道北上西ICより約35分(県道37号線〜122号線)
東北自動車道北上金ヶ崎ICより約40分(県道159号線〜122号線)
料金/大人500円、小人300円(3歳〜小学生)
入浴+大広間休憩:大人1,000円、小人500円(10:00〜15:00)
時間/6:00〜20:00
※半年営業(5月初旬〜11月中旬)









