大沢温泉(岩手県花巻市)花巻市の西部、豊沢川沿いに点在する花巻南温泉峡の中ほどに大沢温泉はある。山水閣、菊水館、自炊部からなり、合計で客室数131室、587名を収容する大型施設だ。毎年4/29には「金勢まつり」が行われているようで、入口には幟が立ち、そして賑やかな人だかりができていた。金勢様といえば男根をかたどった御神体で、子宝や縁結びなどの祈願のために温泉地で祀られていることも多い。大沢温泉の敷地内には御神体が冬の間過ごす仮宮があり、4/29の例大祭のあとは、近くにある大久保山の神社に移されるのだという。

大沢温泉(岩手県花巻市)大沢温泉(岩手県花巻市)例大祭の様子は大沢温泉のブログに詳しく書かれているが、訪れたときには、女性たちが露天風呂(大沢の湯)で金勢様を洗い清める儀式が行われていた。祭りのハイライトというべき儀式で、昨年は4人の一般参加者のうち2人に子供が授かったというから御利益は確かだ。

大沢温泉の歴史は古く、延暦年間(約1200年前)に坂上田村麻呂が傷を癒したという伝説が残る。また、慶応3年(1867)には南部藩主40代利剛公が湯治に訪れ、ほかにも宮沢賢治や高村光太郎が訪れている。豊沢川に架かる曲がり橋より周囲を見渡すと、茅葺きの菊水館といい、田舎風情の自炊部といい、昔にタイムスリップしたかのような風景である。ホームページには大正末期の写真が載っているのだが、当時と何も変わっていないのだ。

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大沢温泉(岩手県花巻市)最も県道寄りに現代的な和風ホテル様式の山水閣が建ち、進入路突き当りに建つ自炊部とは館内でつながっている。日帰り入浴の受付は自炊部で行っており、4ヶ所のお風呂を利用することができる。ところどころに案内図があるのだが、右へ左へと移動が大変。

まずは自炊部玄関よりいちばん近いところにある、山水閣の地階にある「豊沢の湯」へ。豊沢川に面して大きな湯船が1つあり、ホテルの大浴場っぽい雰囲気。しかしながら大きな岩を組み合わせた湯船で、半露天のつくりであったが、夏場以外はガラス戸を設けて内風呂へと様変わりするようだ。川面まで2〜3mの高さにあり、対岸は雑木林となっている。まだ新緑の時期には早く、枯れ木ばかりであったが。大沢温泉の風呂の中で、最も万人受けするのが豊沢の湯だろう。

つづいて自炊部の「薬師の湯」へ。天井までは5〜6mありそうな吹き抜けの室内は、壁が薄汚れていて相当年季が入っていそうな感じ。小さな湯船が2つあり、タイル張りのためか、温泉成分のためか底がぬるぬる。窓は天井近くに明かり取りのためだけに設けられており、ひたすら湯に集中するしかない。温泉場の共同浴場をほうふつとさせる素朴さとレトロ感が味わえる。

自炊部はいくつかの建物が渡り廊下で結ばれているのだが、外履き用サンダルでいったん外に出て、橋を渡ると右手に菊水館の茅葺きの建物。左手に「南部の湯」がある。床面だけはタイル張りだが、全体的には木造。約4帖ある湯船も木造で、これから時代を重ねるごとにもっと味わい深くなっていくことだろう。こちらも半露天のつくりで、眼下に豊沢川を眺める。

大沢温泉(岩手県花巻市)最後は「大沢の湯」へ。先ほどまで金勢まつりの儀式を行っていた露天風呂で、南部の湯より豊沢川を挟んで真正面に位置する。菊水館と自炊部を結ぶ曲がり橋からは丸見えという大胆なロケーションだ。しかも混浴である。脱衣所は女性専用が申し訳程度に設けられているが、基本的には湯船の脇に設けられた棚を利用する。目線を遮るものが何もないので、女性の入浴は勇気が必要だと思う。金勢まつりの片づけが終わり、再開した直後に入浴することができたが、あっという間に大勢の人でいっぱいになった。もちろん男性ばかりであるが。間近に川が流れ、周囲は峡谷の地形をなしているが、意外と広い範囲の景色を見渡すことができる。もちろん開放感は言うまでもない。

以上4ヶ所の風呂に入浴したが、自炊部には女性専用の露天風呂「かわべの湯」もある。温泉はすべて無色透明で、わずかにぬめり気があるが、肌ざわりはつるつる。ごく一部で循環処理を行っている。建物の雰囲気もそれぞれ個性的だったが、風呂もそれぞれが個性的だった。土手には山桜が咲き、春の息吹を感じさせてくれたが、新緑や紅葉の時期には、贅沢な景色を堪能できるのではないだろうか。

大沢温泉
源泉/大沢温泉(単純温泉)
住所/岩手県花巻市湯口字大沢181 [地図
電話/0198-25-2315(自炊部)
交通/JR東北本線花巻駅よりバス30分
   花巻市街地より県道12号線
料金/大人500円、小人300円
時間/7:00〜20:30