布引観音温泉(長野県東御市)「牛に引かれて善光寺参り」といえば、長野市の善光寺にまつわる有名な伝説。信仰心のない老婆が布を干していると、牛が角にその布を引っ掛けて走り出し、それを老婆が追いかけていったところ、善光寺へたどり着いたという話。老婆は近くの観音堂に祀られた観音菩薩が牛の化身だと気づき、信心深くなった老婆は極楽往生を遂げたという。その観音菩薩というのが、東御市(旧北御牧村)の布引観音で、懐古園の西方、布引山の断崖絶壁にある。そしてさらに西方1.5kmほどのところにあるのが、今回ご紹介する布引観音温泉だ。

県道40号線(諏訪白樺湖小諸線)の沿道にあり、目印は屋号を記した水色のタンクと「朝風呂7:00から」という小看板。そのわきには常満バス停があるものの、地域のコミュニティバス的な役割のため、旅行者にとっての利用価値は低い。建物の背後には700m級の山なみがつづき、県道とほぼ平行して北に千曲川が流れる。まとまった住宅地もあるが、周囲には畑も広がるのどかな環境。近隣にも温泉がいくつか湧出しているが、布引観音温泉としては一軒宿の営業である。

温泉は昭和58年に湧出し、当初は日帰り施設として営業していたという。平成3年より「要望に応えて」旅館営業も行っているが、立地や佇まいからして通好みの雰囲気だ。1泊2食付で7,500円という格安の宿泊料金は、じゅうぶん魅力的であるが。やはり主となる客は地元住民で、銭湯みたいな感覚で利用しているようだ。現に、脱衣所で100円ロッカーを利用する人はおらず、みんなプラ籠を利用。浴室にはシャンプーやボディソープの備え付けがなく、当然マイセット持参である(フロントで購入も可)。客は4人いたが、うち1人だけが地元住民ではない様子。この温泉がいかに素晴らしいかを自慢するおじさんに、ただただ相槌を打っていた。

浴室の真ん中には大きな湯船、片隅に小さな湯船、そして左右に11のカランが並ぶ。正面に掃き出し窓があるが、外に露天風呂があるわけでもなく、しかも曇りガラスなので景色は何も見えない。余計な装飾や設備は一切なく、それが返って心地よい。お湯は無色透明で、湯船ではほんのわずかに白濁し、また黒い湯の花も舞っている。湯船のふちまでたっぷりとお湯が湛えられ、浸かると勢いよくあふれていく。源泉は47℃だが、湯船では適温。泉質に塩分を含むためよく温まるし、ためしに舐めてみると少し苦味が感じられた。ちなみにシャワーでも温泉が使われている。

小さな湯船は水風呂だった。井戸水を使用しているとのことで、水温は22℃。気持ちのいい冷たさだ。パンフレットやホームページによると、鉄分を多く含むという。といっても無色透明なので見た目ではわからないが、浴室に入った瞬間からかすかに鉄さび臭が感じられた。温泉と水風呂を往復すれば気分も爽快。泉質自体には際立った特徴は感じられなかったが、おじさんがこの温泉をやたらと自慢する理由がなんとなくわかる気がする。

布引観音(小諸市観光協会)
「牛に引かれて善光寺参り」(善光寺-法話第1回)

布引観音温泉
源泉/布引観音温泉(ナトリウム−塩化物泉)
住所/長野県東御市布下498-1 [地図
電話/0268-67-3434
交通/しなの鉄道小諸駅・滋野駅・田中駅よりタクシーで約10分
    上信越自動車道小諸ICまたは東部湯の丸ICより約10分
    小諸市街地より県道40号線(布引観音駐車場より約1.5km・道の駅みまきより約1.2km)
    ※無料駐車場30台分あり
料金/大人360円(中学生以上)、小人180円(3歳〜小6)
時間/7:00〜22:30