かずら橋かずら橋祖谷といえば「かずら橋」である。平家の落人が追っ手を逃れるため、いつでも切り落とせるようにと「かずら」で作ったもので、祖谷川の流れより14mの高さに、長さ45m、幅2mの橋が架けられている。かつては渓谷一帯の唯一の交通施設であったという。国の重要有形民俗文化財に指定されているほか、大月市の猿橋や岩国市の錦帯橋(ほか諸説あり)と並んで「三大奇橋」と呼ばれている。(写真は大歩危・祖谷観光NAVIより)

この橋を目当てに祖谷を訪れたのに、3年ごとの架け替え工事が始まったところだった(1/5〜2/10。現在は工事完了)。観光閑散期に加えて工事の影響だと思うが、かずら橋周辺の車通りはまばら。工事の件は祖谷に向かう途中、道路の電光標識で知ったのだが、はっきり言って情報の数と内容が少なすぎる。温泉で満足させてもらわなければ、まったくの無駄足である。

かずら橋周辺には数軒のホテルと旅館があるが、今回訪れたのは「ホテルかずら橋」。新祖谷温泉の宿だが、日帰り入浴も受け付けている。こちらの売りはケーブルカーで上がった先にある露天風呂。それでいて入浴料は「祖谷秘境の湯」と同じく大人1,000円だというのだから、コストパフォーマンスの差は歴然としている。

ホテルかずら橋(徳島県三好市)ホテルかずら橋(徳島県三好市)ホテルかずら橋(徳島県三好市)
ホテルかずら橋(徳島県三好市)ホテルかずら橋(徳島県三好市)ホテルかずら橋(徳島県三好市)

館内の廊下を突っ切ったところにケーブルカー乗り場がある。車体と屋根を木の板で覆った和風仕様で、乗車定員10名。座席はなく、たとえるなら一般的なエレベーターほどの広さ。運転ボタンを自分で押し、出発進行。40度ほどの勾配をぐんぐん上っていく。あっという間に5階建てのホテルの屋根を越し、祖谷を取り囲む山々の尾根を真正面に眺める高さに。わずか1〜2分の乗車だが貴重な体験だ。

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到着したところには「半兵衛の家」という休憩所がある。茅葺きの古民家を模した建物で、座敷の囲炉裏に火がくべられている。煤けた障子を通して差し込んでくる陽射しとわずかな灯りによって、室内は薄ぼんやりとしたオレンジ色に染まっていた。季節柄、軒には干し柿が吊るされ、素朴で質素な田舎風情を見事に演出している。裏手に回ると、せり出したデッキに足湯が設けられていた。見晴らしは最高。しかし、もっと素晴らしいのは露天風呂からの眺める景色だ。

ホテルかずら橋(徳島県三好市)ホテルかずら橋(徳島県三好市)「天空露天風呂」と名づけられた風呂は、山の斜面ギリギリに岩風呂が接している。正面に祖谷の山々を一望し、実に開放的。一面に緑が広がる以外には、人工物は何もない。標高はかなり高く、天空の名のとおり広々とした空も間近に感じられる。岩風呂のほかに信楽焼の陶器風呂が2つ並んでおり、うち1つは温めの設定。ホテルかずら橋(徳島県三好市)長湯を楽しめる。岩風呂と同じく、お湯は信楽焼の狸が持った壷から絶えず注がれており、なんともユーモラス。植栽もよく手入れされており、好感が持てる。露天風呂は男性の「雲海の湯」、女性の「樹海の湯」のほか、混浴の「筍の湯」もある。こちらは背後に山の斜面が迫り、丸太のまま柱と梁を組んだ屋根が湯船全体を覆う。開放感でやや劣るが、混浴露天風呂は貴重だし、カップルや夫婦はきっと楽しめるはず。肝心の泉質は硫黄泉とのことだが、一般的にイメージする白濁や鼻をつく匂いなどはなく、無色透明でお湯自体に特徴はないかも。泉温17.9℃のため加温しており、循環かけ流し。(写真左・中は「雲海の湯」。右は「筍の湯」)

ホテルかずら橋(徳島県三好市)館内の大浴場も利用可能。大きな湯船に加え、ジャグジーや打たせ湯、サウナの設備がある。露天風呂に満足度が高かったぶん、どこにでもある観光ホテルの風情でやや興ざめな気もするが、あえて入浴しないという選択肢もあり。そもそも入浴料1,000円で温泉と景色を堪能させてもらい、ケーブルカーの付加価値がつけば、もうこれでじゅうぶん。四国といえば松山市の道後温泉くらいしか浮かばず、実際に温泉資源が乏しい地であるが、ホテルかずら橋の存在はもっと注目されてしかるべきだと思う。

ホテルかずら橋
源泉/新祖谷温泉(単純硫黄泉)
住所/徳島県三好市西祖谷山村善徳32 [地図
電話/0883-87-2171
交通/JR土讃線大歩危駅よりバス18分「ホテルかずら橋前」停下車
料金/大人1,000円、子供500円
時間/10:00〜16:00

秘湯ロマン(テレビ朝日)
大歩危・祖谷観光NAVI(三好市観光サイト)