日の出湯(北海道函館市)函館市内で温泉といえば、湯の川温泉と谷地頭温泉。どちらも函館市電の終点にあり、思い立ったら即温泉という交通便の良さ。函館山南麓に位置する谷地頭温泉は、銭湯料金で入浴できる函館市営谷地頭温泉があるだけだが、競馬場や空港にほど近いところに位置する湯の川温泉は、350年の歴史を持つ道南最大の温泉郷。市電で湯の川温泉または湯の川の電停で降り、海岸方面へ歩いていくと、大小のホテルや旅館が点在している。温泉銭湯も5軒あるが、これらのうち熱帯植物園前の「日乃出湯」と「根崎湯」は、道をはさんで隣どうし。それぞれに常連がいるから経営が成り立っているのだろうが、いくらなんでも近すぎやしないか?と思う。

今回訪れた「日乃出湯」は、番台形式の典型的な銭湯だった。ややレトロ感も漂う脱衣所には、地元テレビ局のレポーターのサイン色紙、地元新聞で紹介された際の切り抜きが貼ってある。記事をざっと流し読みしてわかったのは、2つある湯船のうち、手前はかなりの熱湯であるということ。それを踏まえ、あえて奥の湯船から入浴。それでも覚悟して浸かったわりには、お湯は熱くなく、むしろ温めに感じる。すると近くにいたおじさんが、「温かったらそこの袋をずらしてお湯を入れるといいよ」と言う。湯船の脇は樋のようになっており、そこを高温の源泉が流れている。小さな砂袋が土嚢のように置かれ、ちょろちょろとしかお湯が注がれていないが、その袋をずらして注ぐ湯の量を調整すれば、湯船のお湯の温度も調整できるというわけだ。湯船は浅くつくってあり、調子にのって源泉を勢いよく注ぎ続けたら、あっという間に熱湯風呂になってしまった。

日の出湯(北海道函館市)手前の湯船には源泉がそのまま注がれているので、かなりの熱湯だった。おじさんたちが微動だにせず、じっと肩まで浸かっている光景はまさに我慢比べ。しかしそのおじさんたちは、洗い場でおしゃべりしたり、体操したりと湯冷ましする時間のほうが長かったりするのだが。「日乃出湯」では専用源泉を持っており、65℃ある源泉を絞り込むことで約48℃まで下げているのだという。新鮮なお湯があふれるほどに注がれているのは言うまでもないが、その源泉の成分によって床や湯船のふちは茶色や緑、黒などに変色し、また湯の花が堆積している。長い年月をかけて徐々に大きくなった堆積物は、樋の部分では真っ白で丸みを帯びているが、床では黄土色で魚の鱗のような水紋となっている。お湯は無色透明だがわずかに青みがかっている。海が間近な立地なので塩分がきついかと思いきや、飲んでみるとわずかにしか塩味を感じないし、意外なほどにさらっとしている。

周辺のホテルの宿泊客の訪問も多いというが、なんとなくその理由もわかる気がする。こぎれいだがありきたりな大浴場に比べれば、日乃出湯の入浴は貴重な体験となることだろう。銭湯なので気軽に利用することができるし、なによりも朝6時から通しで営業していることもありがたい。温泉そのものの良さを実感できたのはもちろんだが、浴室では素朴な風情やあたたかい人情にふれることができる。函館市だということ、道南を代表する温泉地であることを忘れてしまいそうな雰囲気だ。

北海道公衆浴場業生活衛生同業組合
函館市内の名湯、秘湯[温泉レポート]All About

日乃出湯
源泉/湯の川温泉(旧名称:含重炭酸土類石膏食塩泉)
住所/北海道函館市湯川町3-2-17 [地図
電話/0138-57-8692
交通/函館市電「湯の川」または「湯の川温泉」停より徒歩10分
     JR函館駅前よりバス約25分「熱帯植物園前」停下車すぐ
料金/大人420円、中人140円、小人70円
時間/6:00〜22:00、毎週月曜日定休(祝日の場合は翌日)

(追記-2011/12/29)
湧出量の減少により、12/28をもって廃業したとのこと。
今年11月下旬から湧出量が減少し、温度も低下。温泉水位の低下や創業時から使用している管の老朽化が原因とのことだが、井戸を掘り下げたり、設備を更新するのには多額の費用がかかることから、廃業が決まったという。1924年頃に創業し、地元住民はもとより観光客にも愛されてきた銭湯。残念としか言いようがない。

さよなら「熱い温泉」…老舗銭湯、無念の廃業(YOMIURI ONLINE)



根崎湯(北海道函館市)根崎湯
住所/函館市湯川町3丁目3-30
電話/0138-57-6997
時間/6:00〜22:00、月曜日定休