安善湯(横浜市鶴見区寛政町)鶴見駅を起点に川崎の臨海地区を走るJR鶴見線。京浜工業地帯ゆえ、朝夕は工場に通勤する列車が頻繁に走っているが、昼間はのどかなもので、都会のローカル線とも揶揄されている。駅名は企業名や創業者にちなんだものがほとんどで、安善駅は安田財閥の創業者である安田善次郎、武蔵白石駅は日本鋼管創業者の白石元次郎といった具合。その安善と武蔵白石のほぼ中間に位置するのが安善湯だ。電車を降りてすぐにまとまった住宅地があるのは安善湯のある寛政町だけで、川崎市(川崎区白石町)との市境にある。

安善湯(横浜市鶴見区寛政町)安善湯はその稀有な立地もさることながら、浴室にもとある特徴があって、神奈川県の銭湯マニアには有名な銭湯だ。しかし、地元住民の専用湯(ジモ銭・ジモ専)という性格が強いのか、扉を開けたときの「なんだ、○○さんじゃないのか」という声を聞き逃さなかった。常連客に混じって安善湯のご主人もテーブルを囲んでの談笑中で、居心地の悪さは尋常ではないが、これも銭湯ならではの庶民的な光景か。常連客が一斉に帰宅してからも、ご主人は一度たりとも番台に座ることはなかった。

安善湯(横浜市鶴見区寛政町)外観や脱衣所はどこにでもある銭湯のそれと変わらないが、浴室が八角形(性格には二方の角に梁を設けて八角形に見立てている)というのは珍しい。室内中央に設けられているのは円形浴槽で、これは神奈川県唯一。直径2.5mほどだろうか、複数の客が同時に湯船につかるとなればちょっと狭いかもしれない。お湯は緑色だったが、この日の入浴剤は「ブルーミント」と看板が出ていたように記憶している。

安善湯(横浜市鶴見区寛政町)静岡県沼津市の吉田温泉も円形浴槽だったが、全国的にも珍しいのではないかと思う。カランは八角形の一辺に4つずつ、計16コだったか、シャワーが付いているのはその半分のみ。壁に直接描いたペンキ絵は小ぶりだが、富士山(山梨)と湖(近江)の2つ。亡き早川利光師によるもので、20/11/6の日付入り。というわけで、庶民情緒に富んだ雰囲気、八角形の浴室、円形浴槽、ペンキ絵と見どころいっぱい。神奈川県民ならずとも、全国の銭湯マニアはぜひ一度訪ねてみるべし。

横浜市浴場組合の50周年記念誌「さあ、ヨコハマ銭湯へ行こう!」によれば、安善湯の開業は昭和44年。それ以前は大手工場社宅の共同浴場であり、コンクリート造の建物は昭和初期に建てられたのだという。

安善湯(神奈川県浴場組合)
安善湯(横浜市浴場組合)

安善湯
住所/横浜市鶴見区寛政町8-1 [地図
電話/045-511-0240
交通/JR鶴見線安善駅より徒歩4分、武蔵白石駅より徒歩4分
料金/大人450円、中人180円、小人80円
時間/15:30〜22:00、不定休