井川湯(横浜市神奈川区子安通)湯船の種類がたくさんある銭湯もよいが、堂々たる宮造りの銭湯もよい。しかし、庶民的な風呂屋の風情を味わいたいならば、路地裏にひっそりと佇む銭湯を訪ねるとよいだろう。井川湯は京急子安駅より徒歩4分。駅の南側を東西に通る第一京浜(国道15号線)より、細い路地を入っていく。この近辺はかつて漁師町だったらしく、船宿も数軒が営業中。民家が密集し、通り端には井戸もある。『さぁ、ヨコハマ銭湯へ行こう!』(横浜市浴場協同組合)によると、井川湯の創業は明治後期とのこと。横浜市内の現役の銭湯としては、五本の指に入る歴史の古さだ。

井川湯(横浜市神奈川区子安通)井川湯(横浜市神奈川区子安通)井川湯(横浜市神奈川区子安通)

玄関先には富士山と鯉のタイル絵。井川湯に限ったことではないが、どうして傘立てで隠してしまうのか。しかしながら、早くも期待が高まる。こういう銭湯って実は素晴らしいペンキ絵だったりするのだ。やはりと言うべきか、玄関の戸を開けて目に飛び込んできたのは赤富士の堂々たる姿。逸る気持ちを抑えて番台で料金を支払う。こじんまりとした銭湯なので、脱衣所は片側の壁面、しかもその半分だけにしかロッカーはなく、もう半分は常連さんの洗面道具の棚になっている。常連さんと思しき先客が2〜3人いたが、みんなカゴを使っているようだ。

井川湯(横浜市神奈川区子安通)浴室は手前に洗い場、奥に湯船という配置だが、いかんせんこじんまりとした銭湯なのでカランは左右に6つずつあるのみ。知る限りだと小田原の田浦湯(⇒記事)と双璧をなす、神奈川県ワンツーの規模。女湯との間仕切り壁にはタイル絵が3枚。三保の松原、二宮尊徳、忍野八海か。湯船は深湯と浅湯の2つに仕切られており、びっくりするくらいお湯が熱い。温度計は48℃を指しているが、おそらく45〜46℃といった感じ。湯船のすぐ上には「お客来い来い」で縁起のよい鯉のタイル絵。そしてこれまた縁起がよいと言われている赤富士のペンキ絵。昨年9月に中島盛夫師によって描かれたもの(⇒詳細)。大胆な構図と色彩によって強烈なインパクトを放っている。

井川湯(横浜市神奈川区子安通)客は数人しかいなかったが、みな近所の常連さん。おじさんの1人にいたっては、上半身裸のまま洗面器を小脇に抱えて帰っていった。交通量の多い第一京浜からわずかに入っただけなのに、横浜の下町風景を深く実感できるとは! たいていの人は銭湯イコール唐破風・宮造りの外観を想像するかもしれないが、井川湯はよい意味で期待を裏切る典型。暖簾をくぐって、ひさびさに「ヒット!」と感じた銭湯だった。

井川湯(神奈川県浴場組合)
井川湯(横浜市浴場組合)

井川湯
住所/横浜市神奈川区子安通1-165 [地図
電話/045-461-5750
交通/京急子安駅より徒歩4分
料金/大人450円、中人180円、小人80円
時間/15:00〜22:00、不定休(月3回)