熊の湯ホテル(長野県山ノ内町平穏)万座温泉から国道292号線(志賀草津道路)で渋峠を経て、長野県山之内町へ。志賀高原と呼ばれ、日本有数のスキーリゾートだ。オフシーズンにはトレッキングも楽しめるが、各地に点在する温泉も魅力のひとつ。このうち志賀プリンスホテルや志賀喜楽ホテルなどが建つ地区は「ほたる温泉」と言うが、その裏手には小川をはさんで「熊の湯温泉」の熊の湯ホテルがある。江戸時代後期に活躍した松代藩士・思想家の佐久間象山によって発見されたと言われ、温泉で熊が傷を癒していたことが名前の由来。熊の湯ホテルは大正10年(1921)創業の老舗で、隣接して熊の湯スキー場がある。

熊の湯温泉が有名なのは黄緑色の硫黄泉だから。全国的にも珍しいのではないだろうか。日帰り入浴を受け付けている時間は短いが、このお湯を堪能するために多くの客が訪れていた。フロントで入浴料を支払い、館内の奥に浴室へ。脱衣所ではカゴを使用するので、貴重品は自己責任とするか、フロント前にある有料ロッカーに預ける。ホテルだけあってカミソリやクシが備品として置いてある。

浴室の扉を開けたら湯治場のような風情に驚いた。天井から壁、床にいたるまで全てに木目を出しており、さらに湯船は檜づくり。年月を経て黒ずんだ木の地肌が湯気で光り、昭和初期にでもタイムスリップしたかのよう。そして湯船に黄緑色のお湯がたっぷりと湛えられている。大きな湯の花も大量に舞っている。抹茶風呂のような色。茶色に黄緑なんて完全に和の趣だ。日によって透明な緑から乳緑色まで変化するという。湯船は6帖ほどの大きさで、頭を載せるための木の枕が3つ付いている。お湯は熱めだが、すぐに慣れるはず。柄杓でお湯を飲んでみると、苦味と渋みがあって熊笹茶のような味がする。

露天風呂はまわりに大きな岩を配し、森の木々にも接している。新緑や紅葉の時期も楽しめそうだが、ゴールデンウィークはまだスキーシーズンなので、滑走を終えたスキーヤーの姿も見えるし、ホテルの客室も見える。岩を積み上げ、水が落差3mほどの滝になって露天風呂のわきに流れ落ちている。そして、その水しぶきが飛んでくる。外の空気が涼しくて長湯するにはちょうどいい。

熊の湯ホテル(長野県山ノ内町平穏)

雑誌「自遊人」2009年1月号別冊(温泉図鑑)によると、硫黄が原因で緑色になるのは、硫化水素イオン濃度が高く、中性かアルカリ性の場合(熊の湯温泉はpH7.5)に透明な緑色になることが多いのだとか。湯が緑色に見えるメカニズムはわかっていないらしい。硫黄泉といえば万座温泉のような乳白色のお湯をイメージするが、熊の湯のような泉質があるとは、あらためて温泉の奥深さを知らされる。客室90室の大型ホテルだが、ロビーなどにはクラシックホテルのような趣も残している。標高1700mの高原に位置し、四季を通じて楽しめる。人間に渋みを増してきた頃には、こうしたホテルでゆっくりと滞在してみたいものだ。

熊の湯ホテル
源泉/熊の湯温泉(含硫黄−カルシウム・ナトリウム−炭酸水素塩・硫酸塩温泉)
住所/長野県下高井郡山ノ内町平穏7148 [地図
電話/0269-34-2311
交通/上信越道信州中野ICより国道292号線で約30km
     ※無料駐車場250台分あり
     JR長野駅より志賀高原急行バスで約1時間10分「志賀高原(蓮池)」下車、
     路線バスに乗り換え10分「熊の湯ホテル」下車
料金/大人1,000円(タオルつき)、子供600円
時間/12:30〜15:30

志賀高原観光協会
山ノ内町観光情報