菊水湯(東京都文京区本郷)銭湯を頻繁に訪れるようになったのは、実はここ数年のこと。それまでは旅先でたまに立ち寄る程度だったし、そもそもうちの近所に「町の銭湯」はないため、身近な存在ではなかった。とはいえ自らの銭湯体験を振り返ってみると、幼稚園か小学校の頃まで遡る。母方の実家は文京区本郷にあったが、典型的な下町の住まいには風呂が無く、夜になると皆で銭湯に出掛けたのである。真砂小学校(現・本郷小学校)の近くにあった真砂湯をもっぱら利用していたようだが、幼心のおぼろげな記憶では菊水湯の方に歩いたことを思い出す。最後に本郷を訪れたのはもう15年ほど前。ひさしぶりに町を歩いてみることにした。

菊水湯(東京都文京区本郷)母の実家は菊坂に並行する菊坂下道にあって、棟続きの親戚の家は菊坂でテーラーを営んでいた。菊坂界隈には多くの文人が住んでいたことで知られているが、いまでも庶民的な雰囲気をそこかしこに見て取れる。とくに菊坂と菊坂下道にはさまれた一帯は、段差のある地形ゆえ開発の手が伸びなかったのか、昔ながらの小さな家が建ち並んでいる。そしてこの町で100年以上の歴史を持つのが菊水湯だ。

菊水湯(東京都文京区本郷)現在までに建て替えや中普請を経ているとはいえ、堂々たるレトロ銭湯の風格だ。唐破風屋根には屋号の「菊水」の文字が入った瓦を載せ、兎毛通しには菊が彫られている。コインランドリーや窓の目隠しなどで全体がわからないのは残念だが、暖簾をくぐれば昔の銭湯のまま。番台に座っていたおばあちゃんに話をうかがうと、30年ほど前に湯船やカランを直しているという。脱衣所の通り側を増築してマッサージチェアを並べ、漫画本を置いたりもしている。

菊水湯(東京都文京区本郷)幼心に「大きな銭湯だなぁ」と思ったが、浴室は間口3間半×奥行4間。一般的には広々とした銭湯の部類に入るのかもしれないが、子供の頃の記憶なんて得てしてこんなもんだ。カランはすべて固定式シャワー付きで、間仕切りの壁側に8つ、島式で5-5、外側に4つと立ちシャワーが2つ並んでいる。浴室の奥にはバイブラ湯とジャグジー2基、それに「宝寿湯」の湯船が並んでいる。四角ではなく、全体としてアールを描いた形状で、バイブラ湯側がゆったりとしている。

東京の下町の銭湯といえば熱湯のイメージがあるけど、菊水湯はちょうどいい温度。訪れたときは22時を回っていたが、近所のおじさんを中心に5〜6人の客。なかには家族づれの姿もあった。ちびっ子がいずれよその土地に引っ越すことがあっても、自分みたいに菊水湯を懐かしく思う日がくるだろう。その日まで菊水湯や菊坂の町並みは変わぬままであってほしいなぁと思う。

子供の頃の銭湯体験で思い出したことといえば、リンスは洗面器のお湯で溶かして使っていたこと。シャンプーは昔からボトルタイプだったけど(ポンプ式ではなかった)、ボディソープはまだ出回っていなくて固形石鹸が当たり前だった。昭和50年代が境目なのだろうか。懐かしい思い出だ。

菊坂菊坂菊坂下道
菊坂(左・中)と菊坂下道(右)

菊水湯(文京区浴場組合)

菊水湯
住所/東京都文京区本郷4-30-16 [地図]
電話/03-3815-2637
交通/都営地下鉄三田線春日駅より徒歩3分
     東京メトロ本郷三丁目駅より徒歩8分
     都営地下鉄大江戸線本郷三丁目駅より徒歩8分
料金/大人450円、中人180円、小人80円
時間/15:30~25:00、毎週金曜日定休

(追記-2015/8/24)
ツイッターの複数の情報によると、設備の老朽化、経費の高騰などの理由により、9/30をもって廃業するとのこと。