伊豆市東部ののどかな山あいの集落に「ごぜんの湯」はある。冷川と徳永の両地区の間に流れる小川に橋が架かり、その橋のたもとに建物があるのだが、ぐるりと植え込みが囲んでいる。道路の向かい側には駐車場があって、その傍らには源泉井と貯湯タンク。ここでは飲泉もでき、申し出れば持ち帰りもできるようだ。入浴の受付をする建物は敷地の中ほどにあり、昼間は室内を休憩室として開放している。パンフレットには古民家とあり、間取りはまさしくふすまで仕切っただけ。囲炉裏やこたつを備え、他人の家を訪れているような感覚だが、自由にくつろぐことができる。

ごぜんの湯(静岡県伊豆市冷川)ごぜんの湯(静岡県伊豆市冷川)
ごぜんの湯(静岡県伊豆市冷川)ごぜんの湯(静岡県伊豆市冷川)

日帰りで訪れる客が多いようだが、宿泊も受け付けている。しかも湯治宿を自称するだけあって、自炊や1週間単位のプラン設定もある。もちろん1泊2食付の宿泊も可能で、その費用もリーズナブル。鍼灸マッサージの治療院も併設している。お風呂は玄関を正面に見て左側に女湯、右側に男湯があり、いずれも植え込みの裏側にある。がしかし男湯の露天風呂は植え込みの隙間からのぞけるし、背伸びすれば塀の上から丸見え。宿泊棟は男湯の脱衣所の奥にあるため、たまに通りかかる宿泊客の話し声も聞こえてくる。なんともおおらかな施設である。

ごぜんの湯(静岡県伊豆市冷川)脱衣所はベンチの上にカゴが3つ置いてあるだけで、棚はなく、ほかに洗面台があるのみ。扉を開けると1帖ちょっとの大きさの檜風呂とカランが2つ。源泉はかけ流しで加温、加水、循環、消毒といった処理を一切おこなっていない。それは露天風呂でも同様で、鉄平石を組んでつくった岩風呂には、数箇所から少量ずつのお湯が絶えず注がれている。湯船の傍には金精様が祀られ、また小さな石碑には龍の絵が彫られている。男湯は「龍の湯」といい、そういえば館内にも龍の絵がいくつか飾られていた。女湯は「羽衣の湯」というらしいが。お湯につかりながらふと見上げると、梅の花がもう咲いていた。湯気で春だと勘違いしたのだろう。

源泉は無色透明でにおいもないことから、「これって温泉ですか?」とほかの客に聞かれたが、不思議に思う気持ちもわからなくはない。のんびりとお湯につかり、のんびりとした空気に包まれるだけで非日常の気分が味わえると思うのだが。別の客は伊豆各地の温泉地を訪れているらしく、いろいろと情報交換もしたが、素朴な静かな風情が気に入っているという。どちらかというと大衆向けではなく、温泉通が好む施設であると言えるだろう。「ごぜんの湯」は当地に残る伝説の冷川御前から、源泉名の兀山(こつやま)は近くの山の名前からそれぞれ名付けられている。詳細は忘れてしまったが。

ごぜんの湯
源泉/冷川兀山温泉(ナトリウム・カルシウム−硫酸塩泉)
住所/静岡県伊豆市冷川1002 [地図
電話/0558-83-0281
交通/伊豆箱根鉄道修善寺駅よりバス21分「下尾野口」停徒歩3分
     JR伊東線伊東駅よりバス33分「下尾野口」停徒歩3分
     伊豆スカイライン冷川ICより県道12号線で約1.4km
料金/525円(2時間)
     延長料金:1時間あたり105円(休日は210円)
時間/平日14:00〜22:00、休日11:00〜22:00
     広間休憩は18:00まで
     毎週月曜日定休(祝日の場合は翌日)