曽呂温泉(千葉県鴨川市仲町)曽呂温泉(千葉県鴨川市仲町)千葉県に温泉のイメージはあまりないが、都市部では大深度掘削の温泉施設が、房総半島には一軒宿の温泉地が点在している。とくに房総半島は漫画家つげ義春のエッセイにもたびたび登場し、実際に住まいを探すつもりでいたようだ。つげが惚れ込むくらいの土地だから、昭和40〜50年代当時はもちろん、いまものんびりした景色がつづいている。

曽呂温泉(千葉県鴨川市仲町)曽呂温泉は外房の鴨川市より、県道89号線で内陸に入ったところにある。田んぼや畑の広がる里山の雰囲気で、車1台がなんとか通れる田舎道の先に、一軒宿の温泉旅館が建っている。開湯は70年ほど前だが、千葉県では古い部類に属すという(→Wikipedia)。曽呂(そろ)という地名自体はもっと古いのであろう。かつてこの地域には多くの僧侶がいたが、次第に去ってしまったため「ニンベン」を取って曽呂になったというのが由来であるそうだ。

曽呂温泉(千葉県鴨川市仲町)曽呂温泉(千葉県鴨川市仲町)一軒宿の温泉で、こぢんまりとした佇まい。日帰り客は別棟の専用入口を利用するが、本館とは廊下でつながっており、料金を支払うのは本館の帳場だったりする。だけど別棟側には畳敷きの大広間もあり、お茶を飲んだりテレビを観たりと気ままに寛ぐことができる。館内には千葉県の観光ポスターが何枚も貼ってあるが、それと同じくらいの数で警察のPRポスターが貼ってある。身内に警察官でもいるのだろうか。

曽呂温泉(千葉県鴨川市仲町)曽呂温泉(千葉県鴨川市仲町)浴室は館内のいちばん奥にある。旅館のわりには脱衣所は簡素で、ドアはかっちり閉まらないし、棚とベンチと大型扇風機があるのみ。浴室自体も広くはなく、扉を開けると左右にカランが3つ、正面に2帖半くらいの湯船が1つ。大きな窓から明るい光が入ってくるが、窓の外にはわずかに庭があるのみで、すぐ向こうに竹塀がある。風呂からの眺めなんて気にしていないし、そもそも風光明媚な景色が広がっているわけではない。ついでに言えば観光地にも近くない。あえてここを訪れる理由は、やはり泉質の良さと千葉県では貴重なかけ流しの温泉であることだ。

まず湯船に手足を入れようとした瞬間に気づいたことは、お湯の表面に薄い膜が張られているように見えること。茶色のお湯は東京や横浜などと同じく黒湯の部類だが、ぬるぬるとした肌ざわりが面白い。全身がローションに包み込まれるような感覚で、大げさに言えばどろっとした感覚でもある。湯船につかっているときに意識することはないが、カランをひねって出てくる温泉からは硫黄のにおいを感じることができる。色、肌ざわり、においの面でこれほどまでに特徴的でわかりやすい温泉は珍しい。湯船1つでつまらないかと思いきや、入ったり出たりで何度も堪能。途中で一緒になったおじいさんは、お湯につかるのが今日3度目だという。夕方まで1日のんびり過ごすというから、そういう人にとっては1,000円は決して高くない。

14.5℃の冷鉱泉を沸かしており、湯量は毎分2.6リットルと多くはないがかけ流しで提供。交通の便は悪いし浴室も小さいが、地元客とよっぽどの温泉好きが訪れる程度がちょうど良いのだろう。多くの人にこの温泉の良さを教えたいが、むやみやたらと多くの人には訪れてほしくない温泉だ。

曽呂温泉
源泉/曽呂温泉(含硫黄−ナトリウム−炭酸水素塩・塩化物泉)
住所/千葉県鴨川市仲町90 [地図
電話/0470-92-9817
交通/JR内房線太海駅よりバス約10分「曽呂温泉入口」停徒歩7分
     国道128号線「曽呂十字路」交差点より県道89号線を西へ約3km
料金/1,000円
時間/9:00〜19:00

「ふだん着の温泉」(NHK・2005年1月15日放送)