きのくにや旅館(箱根町芦之湯)旅館やホテルの日帰り入浴は、宿泊客のチェックイン前の数時間に限定されることが多い。しかも平日だったりすると設備点検や清掃などで断られたり、利用できる浴室に制限があったりもする。箱根の芦之湯にある「きのくにや」を訪れたときも、廊下の工事中とのことで2ヶ所ある浴室のうち、1ヶ所が利用できなかった。運が悪かったと思うしかないが、料金を支払った後に言うとは何事か。しかも料金を半額にしてくれるわけでもないし。フロントの女将さん(?)はこちらの接客中だというのに、番頭さんにきつい口調で指示する場面もあった。日帰り利用であちこちの旅館を利用させてもらうと、その素顔がよく見える。きのくにやは箱根の中でも老舗と言われるだけあって、期待していたのだが…。

きのくにや旅館(箱根町芦之湯)芦之湯は小涌谷から元箱根に向かう道中、駒ケ岳の山裾に位置し、「箱根七湯」にも数えられた古い温泉地。現在はきのくにや、松坂屋、山形屋の3軒があり、昔ながらの温泉場の風情を残している。きのくにやは1715年(正徳5)創業で、約3,000坪の敷地に本館(春還楼・吉昇亭)と別館(遊仙観・離れ)が建ち、大浴場のある湯香殿・貴賓殿とともに渡り廊下で結ばれている。また敷地内には5本の源泉を持ち、ほかに1km離れた湯の花沢から引き湯する「湯ノ花揚湯泉」を使用している。貸切風呂を合わせると湯船は大小15あるという。

利用できたのは湯香殿という大浴場のみだった。浴室には4帖ほどの湯船1つとカランが8つ、それに露天風呂がある。客室は48室だというし、もうひとつ貴賓殿という浴室があるからキャパシティとしてはこれでじゅうぶんなのかなと思う。浴室内の内装などに多少古びた印象はぬぐえないが、これも年季のうちか。

きのくにや旅館(箱根町芦之湯)きのくにや旅館(箱根町芦之湯)きのくにや旅館(箱根町芦之湯)

内風呂は白濁した硫黄泉で、ちょっと熱めに加温している。硫黄泉といえば箱根では蒸気造成泉の大涌谷温泉を使用している施設が多いが、それとは違った源泉で、引湯ではなく自噴した新鮮な源泉を堪能できる点が貴重。それなのに循環式かつ塩素消毒をおこなっていることを多少残念に思うが、源泉そのものにこだわるならば外にある神遊風呂だ。小さな陶器風呂だから、硫黄泉を贅沢にひとり占めできる。しかし源泉を加温せずに注いでいるためか、冬はぬるすぎて入れない。どちらも惜しい気がする…。

露天風呂は湯の花沢から引湯した無色透明の源泉を使用している。「芦ノ湖周遊風呂」と名付けられた湯船はひょうたん型をしており、ふちに石を並べた岩風呂風。奥にはすだれを組んだ三角形の屋根が付く。ぐるりと囲む塀には富士山と大涌谷を描いたタイル絵が飾られており、その塀の裏側には木々が生い茂っている。四季の移ろいを感じられるといえば聞こえはいいが、庭園風に整備されたその雰囲気や開放感を総合すれば大満足とは言い切れない。

温泉についてはやや辛口の評価になってしまったが、個性がまったく異なる2つの源泉を満喫できる点ではありがたいし、源泉の使い方にも気を遣っているのはよくわかる。もうひとつの浴室も利用できたなら、評価はもっと上がったかもしれないし、そもそも日帰り入浴の費用対効果の面で得をしたと感じたことであろう。むしろ2時間という制限では物足りないだろう。こうした点を踏まえ、またリベンジしに行かなくてはならない。

きのくにや旅館
源泉/芦之湯温泉(単純硫黄泉)、湯の花揚湯泉
住所/足柄下郡箱根町芦之湯8 [地図
電話/0460-83-7045
交通/箱根登山鉄道箱根湯本駅よりバス約25分「東芦の湯」停徒歩1分
料金/大人1,000円、子供500円(5〜12歳)、5歳未満無料
     ※入浴は2時間以内
時間/12:30〜16:00(休日は15:00まで)

箱根にごり湯の会