蒼の山荘(山北町中川)日本秘湯を守る会に加盟する宿は全国に数あれど、神奈川県では中川温泉「蒼の山荘」のみ。神奈川県内では不便な地にあるものの、中川温泉には現在6軒の宿と1軒の日帰り温泉施設があり、一応の温泉地としての体は成している。それゆえに秘湯という響きがピンとこないのだが、蒼の山荘には秘湯を感じさせる何かがあるに違いない。ちなみに蒼の山荘はかつて山水閣といい、そして秘湯を守る会に認定されたのは平成17年のことである。

中川温泉の宿は微妙な距離で点在しているが、蒼の山荘の目印は「日本秘湯を守る会」の提灯。屋号を記した看板は目立たない。客室数10室のわりにロビーや娯楽室など広々としており、館内は蕗谷虹児(Wikipedia)という画家のギャラリーとして、数多くの作品が展示されていた。戦時中に山北町で疎開していたというが、蒼の山荘とどういう縁があるのかはわからない。本棚には「少年倶楽部」など懐かしの漫画雑誌も並んでいるが、きっとご主人の趣味なのであろう。間接照明のほのかな明かりが照らす先に浴室がある。1階は男湯で2階は女湯だ。

蒼の山荘(山北町中川)しゃれた館内の雰囲気とは対照的に、脱衣所は薄暗い。棚と籠、洗面台、扇風機があるのみ。浴室にいたっては破れかぶれな雰囲気すら漂う。換気が悪くて壁が黒ずんでいるのは仕方ないとしても、5つある照明器具のうちの1つが外れかかっているとは何事か。露天風呂はかつて2つあったようだが、現在小さな湯船は落ち葉を集める場所として放置されている。その上を覆う屋根もよしずがボロボロでみっともない。秘湯と鄙びているさまは同義語ではないはずだが…。

蒼の山荘(山北町中川)それでも温泉としては訪れるべき価値があった。地下320mから湧出するという源泉は、循環ろ過しているものの、かけ流しであるため、湯船からは大量にあふれている。内湯も露天も岩風呂のつくりで、源泉の成分によってい岩はぬるぬるし、ところどころ緑に変色している。露天風呂はなだらかな斜面に接し、目の前には雑木林が広がっている。人間の手をあえて加えず、木々や草花の自然なままの姿を堪能してもらおうとの計らいか。秘湯を守る会の宿紹介には「宿の周りの自然景観を守るために、無理して山を買い取った」とある。なるほど立派な心意気だ。pH10.1という高アルカリ泉で、つるつるとした肌ざわり。その浴感以上に、自然との共存が素晴らしく、神奈川県の温泉施設では稀有な存在であるな、と思った。

蒼の山荘
源泉/中川温泉(単純温泉)
住所/足柄上郡山北町中川897 [地図
電話/0465-78-3311
交通/JR御殿場線山北駅よりバス約43分「中川温泉入口」停徒歩5分
     国道246号線清水橋交差点より県道76号線で約10.3km
料金/大人1,000円、小人500円(小学生以下) ※タオルつき
時間/10:00〜15:00