鹿の湯(栃木県那須町)那須温泉郷は那須湯本温泉、大丸温泉、北温泉、弁天温泉、高雄温泉、八幡温泉、三斗小屋温泉の、いわゆる「那須七湯」を総称して言う。このうち那須を訪れる観光客にもっとも有名なのが那須湯本温泉で、開湯は天平10年(738)だという。那須でいちばんの古湯であるのはもちろん、全国でも32番目という歴史を持つ。江戸時代は湯治場として諸大名も訪れ、また温泉番付では草津温泉に次いで、東の関脇として名を連ねている。

鹿の湯(栃木県那須町)鹿の湯とはその名の通り、温泉で傷を癒していた鹿を発見ことに由来する。那須湯本のホテルや民宿では鹿の湯源泉を引いているが、日帰りで楽しみたいなら殺生石の道向かいにある日帰り温泉施設「鹿の湯」を訪ねるとよいだろう。温泉街の北側に位置し、湯川の流れを挟んで右手の玄関は大正築、左手の浴室は明治築の建物だという。たかが日帰り施設といえども、湯治場の雰囲気を現代まで保ち続ける姿勢に敬意を表したい。

渡り廊下より浴室へと向かうが、ここには入湯の心得が掲げられている。初めにかぶり湯を100〜300回。ひしゃくで頭からかぶるのだという。次に2分ほどの半身浴。そして2〜3分程度お湯につかった後は、上がって休みの繰り返し。「長湯は避けてください」とのこと。何気なく読んだこの心得も、いざ入浴という段になって納得。pH2.53という強酸性であるため刺激が強く、また強烈なまでに高温の湯船まで備えているのだ。浴室で石鹸の使用を禁止している点でも草津と同じだが、こちらでも湯もみショーを行っているのだという(5〜10月の第2・4金曜日11時から)。

広い室内はすべて木造で、温度の異なる6つの湯船が並んでいる。男湯は41℃、42℃、43℃、44℃、46℃、48℃。女湯は41℃、42℃、42.5℃、43℃、44℃、46℃。段階的に高温を体験できるのは貴重だが、なりより46℃や48℃といった熱湯は通常お目にかかることすらないだろう。各湯船は大人4人が膝を抱えて精一杯な大きさで、源泉は白くにごっている。硫化水素臭が発生しているため、浴室内で寝転ばないようにとの注意書きもある。ひしゃくを片手に激しく頭からお湯をかぶっている人、打たせ湯で打たれ続けている人などにも圧倒されつつ、まずは無理せず41℃の湯船から。これでは一般的な施設と何ら変わりがなく物足りないので、徐々に熱い湯船へと移動。もっとも奥に46℃と48℃の湯船があるのだが、そこだけは湯船の周りに人だかりができている。まるで挑戦者を待ち構えているかのように…。

しばらく様子をうかがってみるも、意を決してまずは46℃に入浴。普段銭湯で鍛えているので、我慢できない熱さではない。しかし48℃の熱さは、たかが2℃の違いとはいえ、熱さの種類が違った。じりじりと突き刺してくる熱さに加え、皮膚を焦がすような熱さが、足首や指先など皮膚の薄いところを痛めつけてくる。体制を立て直すことすらままならず、涼しい顔を装ってじっと我慢。まわりのおじさんたちから「意外と頑張るねぇ」などと激励されるも、さすがに2分でギブアップ。これ以上の我慢で得られるものは何もなし、と。そのあとに入った41℃なんて、ぬるま湯みたいなものだ。

熱湯好きにはぜひとも挑戦していただきたい施設であるが、遊び半分の入浴はご法度である。入湯の心得をよく理解したうえでの利用を心がけたい。施設の雰囲気や源泉の使い方など、施設自体の満足度やコストパフォーマンスは高く、鹿の湯を目当てに那須を訪れる価値はじゅうぶんにある。

鹿の湯
源泉/那須湯本温泉(鹿の湯・行人の湯混合泉:単純硫黄泉)
住所/栃木県那須郡那須町湯本170 [地図
電話/0287-76-3098
交通/JR東北本線黒磯駅よりバス35分「那須湯本」停徒歩2分
     東北自動車道那須ICより県道17号で約12km
     無料駐車場あり
料金/大人400円、小学生300円、1日券1,500円
時間/8:00〜19:00(12月〜2月は8:00〜18:00)、無休

那須観光協会
那須温泉旅館協同組合

追記-2010/2/27
老朽化が進んで痛みが激しかった男湯の改修工事を終え、3月1日から営業を再開。大規模改修は約40年ぶりだという(10年ほど前に男女別浴として増設したのを除く)。「現施設は1942年に開設。同社は地元旅館などが出資して48年に設立、旅館やホテル13施設への給湯も行っている」(下野新聞より)



滝の湯河原の湯
追記-2012/4/27
那須湯本温泉街に地元住民と民宿宿泊者のみ利用できる共同浴場があった。
左)滝の湯 右)河原の湯