北温泉(栃木県那須町)栃木県の最北部、福島県との県境に位置する那須高原はいま紅葉が真っ盛り。東北自動車道那須ICより県道17号線(那須街道)を北進すると、さすがリゾート地の風情。観光客向けのレジャー施設やホテル、ペンションなどが建ち並ぶが、これらを一気に通過し、那須湯本から先はボルケーノハイウェイ(今年中に無料化の予定)をひた走る。

那須温泉郷と総称される温泉場は、茶臼岳を中心とする那須連山に点在するが、今回はその中から北温泉を訪れた。

旭北湯入口バス停より田舎道を1kmほど行くと、無料の公共駐車場がある。北温泉はここから遊歩道を10分ほど歩いて行くのだが、山あいを埋め尽くす紅葉はまさに絶景の域。この景色については何も説明は要らないだろう。遊歩道は北温泉を経て、清水平から三本槍岳や茶臼岳まで続いている。北温泉から先はむしろ登山道だ。

北温泉(栃木県那須町)北温泉(栃木県那須町)北温泉(栃木県那須町)

やがて北温泉旅館の全景が見えてくるが、山あいにひっそりと佇むさまは、時代から取り残されたかのようでもある。余笹川のほとりに板張りの木造建物が数棟建ち並び、古きよき湯治場としての風情を醸し出している。山の宿らしく自前のユンボやトラックを、床下には越冬用の薪を常備。それなのに手前には温泉プールがあったりして、この時期だと寒々しいのだが、一年中泳げるのだという。

北温泉(栃木県那須町)北温泉(栃木県那須町)北温泉(栃木県那須町)

玄関先の囲炉裏では炭が焚かれ、そこに寛ぐ日帰り客と、チェックインする客でロビーはごった返していた。券売機で入浴チケットを購入することに戸惑いを感じたが、こんな状況ではむしろ合理性が最優先ということだろう。しかしこのチケットは、帰りに回収するのだという。不正入浴もありうると思うのだが、そもそも良識のない客ははるばるここを訪れることはないだろう。帳場の雰囲気は時代劇のセットのようでもあり、和箪笥ほか調度品は相当年季が入っている。かと思えば、廊下には日露戦争時の軍人の写真が貼り出してあったりする。売店ではカップ麺や日本酒、トランプなど、湯治生活の足しになりそうな商品とともに、骨董品に値する生活民具の類まで並んでいる。これらをひとつひとつ見ていたら迷子になってしまいそうなほど、館内は複雑に入り組んでいる。安政時代の建物に、明治、昭和の建物が増築され、傾斜した地形にあわせて階段で上り下りしなくてはならないのだ。館内図を見てもよくわからないので、目の前の矢印に従って移動することにした。

北温泉(栃木県那須町)北温泉(栃木県那須町)北温泉(栃木県那須町)

北温泉が有名たる所以といえば、天狗の湯の雰囲気だろう。薄暗い浴室はそれだけでも鄙びた雰囲気ではあるが、壁に掲げられた天狗の面が不思議な世界観というべきか、もっと言えば畏れすらを感じさせる。室内外に子宝祈願の絵馬が数多く奉納されているのを見ると、この温泉に対する信仰の厚さを感じずにはいられない。天狗の湯は文字通り、宝亀年間(770〜)に天狗が発見したとされる無色透明のお湯。豊富な湯量をかけ流ししている。湯船の間近に脱衣棚が設えてあるのだが、一部は廊下にもある。簾がかかっているとはいえ、廊下の先からも丸見えだし、その先の浴室への通り道でもある。肝心なことを言い忘れていたが、天狗の湯は混浴だ。秘湯宿だからこそのおおらかさと言えよう。

北温泉(栃木県那須町)北温泉(栃木県那須町)北温泉(栃木県那須町)

天狗の湯の先には打たせ湯(別名不動の湯)とぬる湯(家族の湯)がある。まさしく湯小屋という簡素な佇まいで、言うまでもなく混浴だ。そして鬼子母神の祠には金精様も祀られており、そしてこちらにも数多くの絵馬が奉納されている。北温泉の広大な敷地内にはこのほかに、温泉神社、お不動様、首なし地蔵、馬頭観音が祀られている。積み重ねてきた年月のなかで、館主や訪れる客の手厚い信仰がいまも息づいている証だ。

北温泉(栃木県那須町)北温泉(栃木県那須町)北温泉(栃木県那須町)

館内には女性専用で芽の湯(別名:女の湯、目の湯)という浴室もあるが、そのほかの浴室は男女別浴である。露天風呂の河原の湯は余笹川の流れに面し、秋は対岸の紅葉を愛でながらの入浴となる。上流側には巨大な砂防ダムを控え、山の自然に似つかわしくない景色ではあるが、黄土色に変色しているのは温泉の成分によるものだろうか。河原の湯は明治時代に造られた、「比較的新しい浴場」だという(公式サイトより)。「満天の星の湯」との別名があり、20時からの1時間は照明を落としているのだという。より鮮やかに、そしてより間近に星空を眺めることができそうだ。(右の写真は河原の湯・女湯)

北温泉(栃木県那須町)北温泉(栃木県那須町)北温泉(栃木県那須町)

屋外に出ると相の湯という湯小屋がある。昔は唯一の混浴だったため、この名前がついたのだという。そして温泉プールの泳ぎ湯は大きさが10×15mと本格的。ウォータースライダー代わりの滑り台が、なんとも微笑ましい。裸でも水着でも入浴OKだという。

北温泉(栃木県那須町)北温泉の開湯は古く、元禄9年(1696)のことだという。明治以前は岐多温泉と呼ばれていたそうだが、これは源泉の岐路が多いことに由来するのだとか。いずれも自然湧出の自家源泉を3本持ち、豊富な湯量は合計で毎分1620リットル。老若男女を問わず、秘湯好きの間ではつとに知られた山のいで湯だ。



北温泉旅館パンフレット

北温泉旅館
源泉/北温泉(単純温泉)
住所/栃木県那須郡那須町大字湯本151 [地図
電話/0287-76-2008
交通/JR東北本線黒磯駅よりバス60分「大丸旅館」停で乗換、「旭北湯」停徒歩30分
     東北自動車道那須ICより県道17号、ボルケーノハイウェイ経由約30分
     ※公共無料駐車場より徒歩約10分
料金/700円
時間/8:30〜16:00

那須観光協会
北温泉旅館(自遊人温泉倶楽部)