福島屋旅館(熱海市銀座町)熱海で日帰り入浴を受け付けている旅館・ホテルは多いのだが、入浴料金1,000円以上は当たり前。温泉の街だから各施設ともそれなりに浴室にはこだわっているのだろうけど、飛び込み訪問だとその良し悪しはわからない。ところで今回、熱海の共同浴場を訪れるにあたり、ネットで調べてみたところ、福島屋旅館を数に含めているサイトが複数あった。旅館の日帰り入浴なのに共同浴場とはこれいかに、と思ったが、その料金に納得。なんと大人400円なのである。不景気のあおりで温泉街も様変わりした感もあるが、福島屋旅館は根強いファンに支えられて営業中。「昔ながらの風情を残しつつ」と言えば聞こえは良いが、外観からして鄙びている。まるでつげ義春の漫画に出てきそうな雰囲気だ。

熱海駅から市役所方面へと下っていく通り沿いに位置する。扉を開けるとすぐ左手に帳場があり、裏の小上がりではおばちゃんが昼食の真っ最中だった。料金を支払い、貴重品を預かってくれるというので財布を差し出すと、おばちゃんは袋に入れたりするでもなく、そのままどこかに仕舞い入れた。突き当たりにある浴室までは、わずか10歩足らず。館内を見渡す余裕すらないが、浴室手前には椅子などが置いてあり、常連と思しきおばちゃん数人が談笑していた。建物もさることながら、訪れる客にも年季が入っている。

福島屋旅館(熱海市銀座町)福島屋旅館(熱海市銀座町)福島屋旅館(熱海市銀座町)

脱衣所は昭和の中期から時が止まったかのようだ。広い室内には棚と脱衣籠、扇風機、ベンチ、流し台と必要最低限の物だけ。1つ1つが使い込んであり、いい艶を出している。鏡だけはさすがに曇っていて、「水をとめて下さい」なんてマジックで書いてある。裸電球1つが室内を照らしており、まさにセピア色の空間だ。

福島屋旅館(熱海市銀座町)湯船は大小2つあるが、お湯が張ってあるのは6帖ほどの湯船のほうだけ。小さいほうは空っぽ。意外と深めで、お湯はたっぷり。しばらくお湯につかっていると、正面のガラス越しに「お湯はぬるくないですか?」とおばちゃんの声。浴室もやはり電灯1つで、昼は左右の窓から日差しが入ってくるからよいが、夜は薄暗いだろう。天井の一部がはがれているのなんてご愛嬌で、いちいち気にしていたら侘しい気分になってしまう。L字型した浴室の右手に2人分の洗い場があり、プラスチックの大きなたらいが置いてある。蛇口のお湯はまずたらいに入れ、そこから手桶で汲んで使う。聞くところによると、水口第一・第二共同浴場の女湯でもこういうスタイルらしい。

入浴中は女湯から賑やかな話し声が聞こえてきた。常連のおばちゃんが観光客に話し掛けているのか、「泉質がいちばんいい」「本物の温泉だ」ととにかくベタ褒め。おばちゃんは頻繁に通っているらしい。そんな常連がこの温泉を支える一方で、「熱海に名物旅館の温泉あり」とネットで情報をやり取りする若者たち。そんな構図が、福島屋旅館を密かな人気に仕立て上げているのではないか。鄙びているからといって見過ごしてしまいがちだが、昭和期の熱海の生き証人と言うべき温泉旅館だった。

福島屋旅館
源泉/熱海温泉(ナトリウム・カルシウム−塩化物泉)
住所/熱海市銀座町14-24 [地図
電話/0557-81-2105
交通/JR東海道本線熱海駅より徒歩11分
料金/大人400円、小学生200円、幼児100円
時間/11:00〜19:00、無休

(追記-2012/7/30)
まぼろしチャンネル「いかす温泉天国」にも記事をアップしました。
- No.10 昭和レトロか時代遅れか。熱海が誇る福島屋旅館
あわせてご覧ください!


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