中屋旅館(厚木市七沢)日帰り入浴させてくれる旅館やホテルが増えつつあるが、たいていは宿泊客がチェックインする夕方までの時間帯に限られる。そこにきて七沢温泉の中屋旅館は、日帰り入浴を21時まで受け付けている。近隣の住民にとっては仕事帰りにひとっ風呂もじゅうぶん可能。しかも宿泊客が食事をしている時間帯とあって、風呂は空いているのだ。もちろん宿にとっては、食事の提供などで何かと忙しい時間帯であるはずだが。

以前紹介した福元館⇒記事)を中心としたロータリー状の通りの北側に中屋旅館はある。木造2階建の庶民的な佇まいだが、玄関部分だけは旅館の風情を演出していて、いきなり熊の剥製が出迎えてくれる。館内には狩猟の許可証を掲示しているが、欄間には仕留めたと思われる鹿の角が何本も飾ってある。背後にうっそうとした山を控えているから、熊や鹿は珍しくないのだろう。

中屋旅館(厚木市七沢)玄関先の帳場で代金を支払うと、浴室を案内してくれた。廊下をわずかに歩いたところに内風呂、そしてその先に露天風呂があるという。まずは内風呂から。山なりの地形に建っているためか、浴室の扉を開けると数段下る構造。カラン3つに湯船1つという浴室は、こじんまりとしており、ほかに客がいなくて良かったなぁというのが正直な気持ち。湯船はタイル張りで、ひょうたんを半分に切ったような形。黒くくすんだ壁などを見ても昭和の雰囲気が漂っている。しかしお湯につかってみて、この宿に対する印象が一変。無色透明の源泉は七沢温泉特有の高アルカリ泉で、ぬるっとした肌ざわり。身体にローションを塗ったような不思議な感覚だ。かと思えば、水分が乾くとすべすべになる。余計な設備がないぶん、じっくりと温泉を楽しめるのではないだろうか。

中屋旅館(厚木市七沢)中屋旅館(厚木市七沢)もう一度服を着て、今度は露天風呂へ。長い廊下の突き当たりの先に、簡素な脱衣スペースがある。内風呂でもそうだったが、脱いだ服はそのまま棚に仕舞う。脱衣籠を置かない主義なのだろうか。こちらもカランが3つに岩風呂が1つで、湯船自体は特別大きいとは感じないが、日本庭園を模した空間自体はゆったりとしている。すぐ裏手には山の景色が間近に迫り、効果的なライトアップもまた良し。できれば1人もしくは少人数で静かに楽しみたい。ただひとつ残念なのは、内風呂が循環かけ流しだったのに対し、露天風呂は完全循環式だったこと。ちなみに内風呂同様、カランのお湯も温泉を使用しており、こちらのほうがより温泉らしさを感じさせてくれる。石鹸を流しても、肌はいつまでもぬるぬるとしている。美肌を実感できるはずだ。

今回はあえて空いている時間帯を狙って訪れたのだが、期待以上のお風呂だったので、思いがけず長湯してしまった。レトロな雰囲気の内風呂、野趣あふれる露天風呂といった感じで、1粒で2度おいしい温泉旅館だ。

中屋旅館
源泉/七沢温泉(温泉法の温泉)
住所/厚木市七沢2750 [地図
電話/046-248-0008
交通/小田急線本厚木駅(厚木バスセンター)よりバス30分「七沢温泉」停前
     または小田急線伊勢原駅北口よりバス24分「七沢病院入口」停徒歩10分
料金/1,000円
     入浴+休憩2,500円(2時間)
時間/9:00〜21:00