大増鍾乳洞は奥多摩駅から日原鍾乳洞に向かう途中の小さな集落にある。街道に看板とのぼりを出しているが、観光施設としてはさりげなくて、「なんだ?ここは」と思っているうちに通り過ぎてしまった。でもやっぱり気になって、日原鍾乳洞の帰りに寄ってみることにした。駐車場は「50m先」とあるが、そこにはシルビアの廃車体が放置されていて、しょっぱなからナイスな展開だ。
入口の看板には「真っ白な鍾乳石」というキャッチフレーズとともに、洞内の写真がパネルで紹介されているが、色褪せていてよくわからない。坂道をのぼっていくが、明らかに個人宅の敷地っぽい。そして手作りっぽい受付と、そのわきに石が並べて置いてあるが、肝心の受付には誰もおらず、「向かいの家のインターホンを押してくれ」とのメモ書き。しばらくすると長髪を後ろで束ねたお兄さんがやって来た。
お兄さんは開口一番「うちのは短いけどいいですか?」と言う。日原のような観光鍾乳洞でないことは明らかだし、面と向かって「嫌です」とも言いづらい。むしろその問いかけが興味を余計にそそる。「じゃあ先に説明しますね」と言って、お兄さんは棚に置いてある石1つ1つを説明してくれた。これらは鍾乳石であるらしく、それぞれが特徴ある石であるらしい。お兄さんは早口だし内容が専門的なので少しついていけないところもあったが、簡単にまとめてしまえば「洞内の鍾乳石を触らないでください」ということだ。
ひと通りの予習を終えると、お兄さんは入口の鍵を開け、そして先導されて内部へ。単独見学は不可、しかも洞内の撮影は禁止。「占拠されたことがあるので」ということらしい。内部は大人が小さくなって歩くのが精一杯な通路で、入った瞬間に「小さい」ことがわかる。しかしながらぐるりと1周して戻ってくるようなコースになっており、数歩進んでは立ち止まり、お兄さんがペンライトで要所要所を照らして説明してくれる。
昭和57年に自宅の裏山を掘っていたら発見したのだという。規模は日原鍾乳洞とは比較にならないほど小さいが、ガイド付きで公開しているため鍾乳石が大切に保護されている。鍾乳石は石灰質のため手で触ると黒ずんでしまうし、もろくて壊れてしまう。よって乳白色で氷柱やベーコン状、ストロー状、たけのこ状などさまざまな形状をした鍾乳石は、学者の先生いわく「学術的に貴重」であるらしい。お兄さんの説明には1つ1つ納得なのだが、いかんせん早口で専門的なので少しついていけないところもあった。「お客さんはよく勉強されているから…」なんて言われたが、僕の知識も所詮は大学の授業で習った程度の浅はかなもの。実物を目の当たりにすると「鍾乳洞も奥深いなぁ」と思う。
外に出ると「ほかにお客さん来ないでしょ」と、お兄さんが笑う。「小さいけどいいですか?と聞くと、帰っちゃう人もいるんですよ」とのこと。鍾乳洞に知識があれば納得できる内容だし、知識がなくても素直に感動できるとは思うのだが。それにしても自宅の裏山が鍾乳洞だなんてうらやましくもあるが、たまにしか訪れない客のために自宅を留守にできないなんて、それも大変なことだなぁと思う。
大増鍾乳洞
住所/東京都西多摩郡奥多摩町氷川2226 [地図]
電話/0428-83-2922
交通/JR青梅線奥多摩駅よりバス10分「大沢」停下車すぐ
奥多摩駅より都道204号線(日原鍾乳洞線)で約2.3km
料金/大人400円、中学生300円、小人200円
時間/不明