五色の湯旅館(長野県高山村)山田牧場より須坂市方面へと下る道中には、松川の流れに沿うようにして温泉が点在している。これらを総称して信州高山温泉郷というらしい。その中心的な存在である山田温泉には、旅館と共同浴場が軒をつらねているが、そのほかは一軒宿ないしは数軒の宿からなる小さな温泉場である。五色の湯旅館は山道の途中にポツリとたたずむ一軒宿で、ここは五色温泉という。やたらと間口の広い建物で、「五色の湯」と看板は掲げているものの、旅館っぽくない外観である。ところが館内は昭和的な香りすら漂う雰囲気で、ロビーは薄暗く、そしてフロントのショーケースには温泉に関する本や土産物がぎっしりと陳列されている。

五色の湯旅館フロントご主人自らも「ランプのともしびから」という自伝を出版している。ご主人は幼稚舎から大学まで慶応で学び、シベリア抑留ののち、万座温泉豊国館の支配人を経て、五色の湯旅館を経営。当時は道路がなく、山あいの寂しい秘湯だったが、「暮しの手帖」で紹介されたことをきっかけにして徐々に客が訪れるようになったのだという。また主に一軒宿の秘湯を紹介するための組織「信州秘湯会」を創設。ご主人は長野県の秘湯を訪れるマニアの間では有名な方らしい。ちなみに信州秘湯会では、加盟する27の温泉旅館を紹介する冊子(300円)を発行し、スタンプラリーを実施している。

五色の湯旅館の館内図お風呂は内湯と露天風呂が離れたところにある。傾斜地に建っているため、階段を下りて右に行ったり左に行ったり、まるで迷路のようだ。廊下には手書きの館内図が張り出されていた。有名人のサイン色紙や手紙もベタベタと張り出されていた。


五色の湯旅館露天風呂まずは露天風呂から。掘っ立て小屋のような脱衣所のわきに、岩を組んだ湯船がある。1つは混浴、もう1つは女性専用。混浴のほうは河原の景色で、すぐ近くを松川が流れている。谷底の地形なので、夏の時期には背後と正面には山の緑が生い茂っている。「お湯はいま熱いですよ」とは聞いていたが、お湯につかるには気合いが必要だった。我慢して身体を沈めてみたものの、さすがに長湯はできず、しばし岩の上で湯冷まし。そんなことを何度か繰り返したあとは、内湯へ移動。

五色の湯旅館内湯明るく開放感があった露天風呂とは対照的に、内湯はどうしようもなくひなびた風情。「いにしえ」という名の通りだ。浴室全体が総ヒノキで、お湯に濡れてこげ茶色に光っている。湯治場をほうふつとさせるこの雰囲気がたまらなくいい。そして先ほどの露天風呂に比べれば、お湯の熱さもちょうどいい。源泉は加水せず、自然に冷まして湯船に注いでいるそうだ。

どちらもお湯は乳白色に近い色だったが、「五色の湯」という名が示すとおり、気候の変化によってお湯の色も五色に変化するのだという。時間や湯船によっても異なるのだといい、実際に内湯と露天風呂では微妙に色味が違っていた。そもそも源泉は無色透明だそうだが、日によって乳白色、コバルトブルー、墨色、クリーム、濃緑に変色するというのだから面白い。で、あとで聞いてみると女湯はエメラルドグリーンだったという。

宿泊は1泊2食つきで本館16,425円、新館19,050円。山あいの宿にしては決して安くないが、秘湯の良宿という噂を聞きつけ、遠方からはるばる訪れる客も多いようだ。

信州高山温泉郷観光協会
秘湯ロマン(テレビ朝日)

五色の湯旅館
源泉/五色温泉(含硫黄−カルシウム・ナトリウム−塩化物・硫酸塩・炭酸水素泉)
住所/長野県上高井郡高山村五色温泉 [地図
電話/026-242-2500
交通/上信越道須坂長野東ICより約40分(約22km)
     ※無料駐車場15台分あり
料金/500円
時間/10:00〜15:00 ※90分以内