ゆのつぼ温泉由布院のもっとも賑やかな通りといえば、金鱗湖へとつづく湯の坪街道である。そこから角を曲がってすこしばかり歩いたところにあるのが、共同浴場の「ゆのつぼ温泉」である。江戸時代の文献にもその名が記されているという古湯。町を横断する大分川に面し、通りからはちょっと入っただけなのにとても静か。1995年(平成7)に建替えられたという建物は、民家のような造り。無人なのでお金は入口正面にある料金箱に入れる。脱衣所には棚があるだけ。扉をガラッと開け脱衣所をのぞいて帰ってしまう人がいたが、由布院を観光で訪れる客層には共同浴場になじみがないのか。「下ん湯」とは正反対でまともな施設なのだが。

ゆのつぼ温泉浴室は床と腰壁に御影石を使い、湯船の縁にはヒノキを使っているという。共同浴場にしては高級感すら感じさせる内装である。そして地元の人たちによってきれいに管理されているさまが感じられる。ちなみに湯船は2坪くらいの大きさ。お湯はやや緑がかっており、熱めのお湯が掛け流し。カランは2つだけといたってシンプル。こういうところがやっぱり共同浴場。観光の途中に訪れてみてほしい。

ゆのつぼ温泉
源泉/湯ノ坪温泉(単純温泉)
住所/大分県由布市湯布院町川上 [地図
電話/0977-84-3111(由布市商工観光課)
交通/JR久大本線由布院駅より徒歩11分
料金/200円
時間/10:00〜18:00(地元住民は22:00まで)、年中無休

由布院温泉観光協会(観光情報に立ち寄り湯情報あり)
由布市観光情報-温泉編-(由布市役所)



−由布院温泉について−

テレビ東京系「出没!アド街ック天国」“今行きたい旬の温泉”(2006年12月16日放送)では堂々の第1位に輝いた由布院。年間約400万人が訪れるという。とくに若い世代や女性に人気があるのは言わずもがな。観光地としてのイメージがすっかり出来上がってしまっているが、実は温泉地してもすごいところだった。日本温泉協会の統計によると、由布院温泉の総湧出量は毎分43,177リットルで、別府に次いで全国第2位。源泉数は853でこちらも別府に次いで全国第2位。いずれも別府には倍以上の差があるものの、温泉資源には恵まれているのだ。「温泉統計ベスト10」(『温泉』通巻816号、日本温泉協会、2008年⇒別府市ウェブサイト「温泉データ」より)

観光地由布院の礎を築いたのは「亀の井ホテル」の創業者・油屋熊八であった。1911年(明治44)に別府で旅館業を創めた油屋は「地獄めぐり」や「遊覧バス」を手掛ける一方、別府に滞在した文人たちを由布院や久住高原へ案内するなど、九州の広域観光圏の確立に尽力した(⇒参考:長湯温泉大丸旅館)。油屋は1921年(大正10)に文人たちを招待するため、金鱗湖のほとりに別荘を建てた。それがいまの亀の井別荘である。歴史は下って昭和40年代、女性が1人でも寛げるようにと新しい温泉リゾート地を目指した。いまでは日本を代表する人気の温泉地といえる。

(参考)
「観光地別府の未来を描いた男−油屋熊八」(あっと九州)